生徒さんの随筆

piccoro-ecco2009-02-02


渋谷教室生徒さんの、聖マリアンナ医科大学 医学部長 尾崎承一さん 芸名(ドクトルといち)さんの随筆を今日と明日、日本医事新報より引用させていただきます。

腹話術を教えるものとしては、喜んでいただいたという出演報告もらうのが、とっても嬉しいです。
尾崎さんの紹介はまた別の日に・・

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腹話術の魅力

 今、聖マリアンナ医大の小児科病棟への「腹話術訪問」を終えて、自室に帰ってきたところである。汗だくとなり全身に疲労感はあるが、しかし、実に清々しい疲労感である。目を閉じると、先刻のプレールームでの笑顔と笑い声が浮かんでくる。私の手には、子供達から贈られた寄せ書きと折り紙の鎖が握られており、訪問の余韻を感じさせてくれる。行ってよかったなあと、足元にいる私の3人の人形に語りかけた。

 腹話術を始めて2年3ヶ月になる。きっかけは、カルチャースクールの「腹話術体験入門講座」に、「老後の楽しみの準備」のつもりで気軽に顔を出したことであった。今は私の師匠となった、その入門講座の講師が、私を含めて3人の新参者に「腹話術に重要なものは何か」と質問した(1)唇を動かさない、(2)人形を巧みに動かす、(3)おもしろいネタ、この中から選べという訳である。3人とも即座に(1)と答えたが、師匠によると(1)は最も重要度が低かった。いわく、「ストーリーがおもしろくて、人形が活き活きと動けば、誰も演者の唇など注目しません。」まさにこれだと膝を叩いた。これがその師匠への入門のきっかけとなった。

 以来、月1回のレッスンに出て(出られない月も多いが)腕を磨くこと2年。おかげでクソ度胸だけはついて、人前で演じることが楽しくなり、かれこれ二十回程あちこちでやらせていただいた。辛抱して聞いて下さった方々、そして、お愛想ででも笑って下さった方々に感謝している。

 今日の小児科での腹話術のあと、看護師長がポツリとおっしゃった言葉が印象的であった。「先生、最後まで良く笑っていた男の子がいたでしょう。若年性関節リウマチで、今朝も関節痛で泣いていたんです。あの子があんなに楽しそうに笑うのは、入院中初めて見ました」。これこそが腹話術の魅力。ますます腕を磨いて、より多くの方々に喜んでいただけたらと思っている。

出典:
 「日本医事新報 No. 4398 2008年8月9日号 緑陰随筆2008 39-40ページ」より引用。